三ない運動について
バイクに乗る者ならば、一度は耳にしたことがあるだろう「三ない運動」。この運動は、高校生に対して「バイクの免許を取らせない」「バイクに乗せない」「バイクを買わせない」というスローガンのもと、全国高等学校PTA連合会によって1982年に決議されたものです。当時は、爆発的なバイクブームに伴い、重大事故や暴走族の増加など、バイクに対するネガティブなイメージが蔓延していたことから、高校生の命を守り、非行を防止する目的で始められたのが、この三ない運動でした。
しかし、長年にわたり根強く浸透していた三ない運動も、近年では見直しの機運が高まってきています。その背景には、交通環境の大きな変化や、暴走行為を行う青少年の減少など、社会情勢の変化があります。また、2018年6月には選挙権年齢が18歳に引き下げられ、高校生自身が自ら考え、判断する自主・自律の教育が求められるようになってきたことも大きな要因です。
特に、埼玉県では、「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」を設置し、三ない運動の見直しに取り組んでいます。委員会では、「当事者である生徒の声を聞くべきである」と考え、高校生を対象とした意識調査を実施。その結果、まだ三ない運動が行われていた当時の生徒たちの中には、バイクの免許を取ったり、実際に乗ったりすることに対して、現実感が希薄な者も多くいることが明らかになりました。
「三ない運動」から「乗せて教える」教育へ
そこで、埼玉県は、三ない運動を廃止し、代わりに「乗せて教える」教育へと方針を転換。2019年4月から、条件付きでバイク通学を認め、安全運転講習の受講を義務付けるなど、高校生への実践的な交通安全教育を実施しています。
この安全運転講習では、バイクに乗って間もない生徒の視点に立ち、様々な危険を擬似的に体験させるプログラムが組まれています。例えば、時速30kmと35kmの2つの速度で同じコースを走らせ、コーナリングの限界速度を体験させたり、クルマや障害物による死角を確認させたりと、きめ細やかな内容となっています。
また、講習の参加者からは、危険予測の大切さや正しい安全運転技術の重要性といった、安全運転に対する意識の向上が顕著に見られたそうです。一方で、昨年の埼玉県内における高校生のバイク重大事故5件は、全て安全運転講習未受講の生徒によるものだったことから、この取り組みの継続の重要性が指摘されています。
本来、高校生の時期は、交通社会に参入する責任を自覚し、自他の命を守る交通行動を身につける大切な時期です。三ない運動では、そうした機会が失われていたのが問題だったのかもしれません。今後は、バイクを必要とする生徒がいる限り、安全運転教育を前提とした取り組みが、全国的に広がっていくことが期待されます。